金属水酸化物前駆体法


はじめに

 現在、超高圧合成はHigh-Tc関連の新物質探索において、最も有力な合成法である。しかし、得られる試料の実用性は低い。このような状況のもとで、近年、金属水酸化物Sr2Cu(OH)6・H2Oを低温(〜370℃)常圧下で焼成することにより、高圧安定相である正方晶Sr2CuO3+δが得られることがMitchellらにより報告された。[1]
 そこで、同様な方法により、
 ・金属水酸化物前駆体SrCu(OH)4・H2Oを用いて、最も代表的な高圧安定相であり超伝導体である無限層SrCuO2
 ・金属水酸化物前駆体Ba2Cu(OH)6・H2Oを用いて、高圧安定相Ba2CuOx(報告例なし)
の低温常圧合成を試みた。

 

実験方法

 まず、金属水酸化物前駆体SrCu(OH)4・H2O、Ba2Cu(OH)6・H2Oを合成する。[2](図1参照)
次に、この前駆体を図2に示す条件により焼成し、得られた試料の形成相を粉末X線回折により同定した。

図1. 金属水酸化物前駆体合成手順.

 

実験結果

・(Sr,Ca)Cu(OH)4・H2Oを前駆体とした場合(図2)
 前駆体は200℃ですでに分解するが、400℃以下では、いずれの雰囲気においても結晶化があまり進行していない。一方、窒素気流中、500℃では、常圧安定相である斜方晶SrCuO2が得られた。通常の固相反応法よりも400-500℃ほど低い温度での合成が可能になることが分かった。しかしながら、正方晶SrCuO2[無限層]は見られなかった。

・金属水酸化物前駆体(Sr,Ba)Ba2Cu(OH)6・H2Oを前駆体とした場合(図3)
 300-400℃では、いずれの雰囲気においても、BaO2やBa2Cu3O6の常圧安定相が出現した。また、窒素気流中、600℃で常圧安定相である正方晶Ba2CuO3+δが得られ、この銅酸化物も固相反応法よりも約250℃ほど低い温度での合成が可能になることが分かった。しかしながら、新しい相は得られなかった。

 

図2. (Sr,Ca)Cu(OH)4・H2Oの焼成相図.


図3. Ba2Cu(OH)6・H2Oの焼成相図.

 

references

1) J. F. Mitchell et al.:Physica C227 (1994) 279.
2) V. R. Scholder et al. : Z. Anorg. Allg. Chem. 216 (1933) 138.


publications

長井一郎、加藤雅恒、小池洋二: 固体物理 36 (2001) 777.
I. Nagai, M. Kato and Y. Koike: Physica C338 (2000) 84.
M. Kato, I. Nagai and Y .Koike: Solid State Ionics 108 (1998) 275.
M. Kato, T. Miyajima, I. Nagai and Y. Koike :J. Low Temp. Phys. 105 (1996) 1499.