3.低次元量子スピン系物質におけるスピン熱伝導


  固体物理学の教科書には、熱伝導に寄与するキャリアとしてフォノンと伝導電子が挙げられていますが、 最近、Sr2CuO3Sr14Cu24O41のような 低次元量子スピン系と言われる物質において、スピンがフォノン以上に大量の熱を運んでいることが発見されました。 これらの物質は電気的には絶縁体ですので、電気的絶縁性高熱伝導材料としての応用も期待できます。

 また、最近、量子スピン系の物質において、スピン状態の変化によって熱伝導率が劇的に変化する物質がいくつか発見されています。 たとえば、我々は、TlCuCl3において、低温・強磁場下で発現するマグノンのボーズ・アインシュタイン凝縮相で熱伝導度が 著しく増大することを発見しました。このメカニズムはまだよく分かっていませんが、熱伝導率の測定がスピン状態の変化を検出する プローブとして有効であることは確かです。

 そこで、本研究室では、
(1) 低次元量子スピン系とみなされる種々の物質の熱伝導率を測定し、スピンが大量の熱を運んでいる物質を探索しています。
(2) さらに、磁化率、比熱等の物性測定から、スピンが大量の熱を運ぶメカニズムの解明をめざしています。
(3) さらに、種々の量子スピン系物質においてスピン状態の変化によって熱伝導率が劇的に変化するメカニズムの解明をめざしています。

 具体的には、
 ・ 低次元量子スピン系物質の大型単結晶の育成:フローティングゾーン・ゾーン法等
 ・ 単結晶試料の評価:X線回折による結晶構造解析、化学滴定による組成分析等
 ・ 熱伝導率の測定
 ・ 物性測定:磁化率、比熱
等の実験を行い、基礎物性を総合的に研究しています。

また、スピンは磁場の影響を大きく受けますので、東北大学金属材料研究所附属強磁場超伝導材料研究センターの超伝導マグネットを利用させていただき磁場効果を調べています。
 ・ 他研究機関に出張して行う物性測定:強磁場下での熱伝導率の測定

さらに、本研究室で作製した高品質の単結晶試料を他研究グループに提供して、多くの共同研究を実施しています。
 ・ 他研究グループとの共同研究:NMR、ESR、中性子散乱、共鳴非弾性X線散乱等