【2023年3月2日】分子を構成する原子の速度を測るスピードガンを開発 -“ナノの世界”の力学メカニズムの解明に挑む-
【本学研究者情報】
○多元物質科学研究所 量子電子科学研究分野 教授 髙橋正彦
【発表のポイント】
○分子を構成する原子個々の運動スピードの計測に世界で初めて成功
○ “ナノの世界”で原子に働く瞬時的な力を測定するための基盤技術の創出
○ 分子の機能性や反応性が何故そのように発現するかの起源をナノスケールで直接的に観察・解明しようとする目標に向けた大きな一歩
【概要】
重力を受けて振り子が往復運動を繰り返すように、分子を構成する原子はナノスケールの力学法則に従って絶えず運動しており、それら原子運動が分子の機能性や反応性の起源となっています。しかし原子のそうした運動はこれまで原子の集団運動のエネルギーを計測することにより間接的に調べられてきましたが、実際に個々の原子が分子の中でどのように運動しているかを直接観測す
ることはできていませんでした。
東北大学多元物質科学研究所の髙橋正彦教授、鬼塚侑樹助教、立花佑一博士、金谷諭大学院生の実験グループおよび東北大学大学院理学研究科の河野裕彦客員研究者(名誉教授)の理論グループからなる共同研究チームは、分子を構成する原子種個々の運動スピードを測定する、いわば「原子のスピードガン」の開発に初めて成功しました。
本研究は、野球のスピードガンで用いる電波を高速電子線に置き換えて電子の衝突前後のエネルギー変化を調べることにより、水素原子(H)と重水素原子(D)が結合した重水素化水素(HD)分子を構成する H 原子と D 原子個々の運動スピードを精密に計測できることを実験と理論の両面で実証しました。
さらに、対象とする分子の化学組成も定量的に解析できることも併せて示しました。ユニークな特徴を併せ持つ本計測法の応用は多岐にわたります。例えば、不安定な分子に活用すれば、ナノスケール(ナノは 10 億分の 1)の世界で起こる反応が進むにつれ、原子に働く力が時々刻々変化していくさまを計測することが可能になるなど、分子の機能性や反応性の理解に質的変化をもたらすことが期待されます。
本研究成果は、英国王立化学会が刊行する国際学術誌「Physical Chemistry Chemical Physics」に 2023 年 2 月 15 日(現地時間)付でオンライン速報版として掲載されました。
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※日本経済新聞(電子版)掲載(2023年3月03日付)
※日本経済産業新聞(紙面)掲載(2023年3月17日付)